この間のお話で、卵からかえったひなは、最初に見たものを親と思う働きを持っている(インプリンティング)ことをお話ししました。動くものであれば、何でも親だと思ってしまうらしい、というところまで紹介しましたよね。

 さて、ヘスという人がローレンツの実験を同じように繰り返していると、あることに気づきました。自然の状態では卵からひなが一斉にふ化する(3−8時間)のに、人工的に暖めてふ化させると、ふ化がばらばらの間(2−3日間)にふ化するのです。

 よく考えれば当たり前だと思いませんか。だって、ひなはみんな同じ巣で生まれるわけですよね。2−3日もかけて卵がふ化していたら、後から生まれたひなは先に生まれたひなのことを親だと思ってしまうことになりませんか?

 なにか仕組みがあるにちがいないとヘスは考えました。ふ化直前の卵に何か秘密があるのではないかと思いついたのです。そこで、ふ化する直前の卵に高感度マイクをあててみると、なんと、殻の中でひなが鳴いているのです。そうです、ひな生まれる前から鳴き声を上げていたのです。

 さらにヘスは、この卵の中のひなの声を聞いて、親鳥がふ化の近い卵に何か働きかけをしているのではないかと考えました。そこでヘスはふ化がおこるときの親の鳴き声をテープに録音し、ふ化直前の人口ふ化している卵たちに聞かせてみました。すると、人口ふ化にも関わらず、自然状態と同じように、すべての卵が4時間でふ化したそうです。卵の中のひなは、ちゃんと自分の親の呼び声を聞いて、それに応えて殻をやぶるんですね。

 この間お話ししたように、インプリンティングは一度起きてしまうと変更がききません。だからこそ、親の呼び声を聞いてふ化するこの仕組みが大切なのでしょう。

☆参考にした本:藤田統他編著『心の実験室2』福村出版 1977


第5の扉卵の中のひな〈ひなは殻の中で聞いている...。〉