よく、人生の先輩と言われるようなの方々が「いろいろな経験をするといいよ」と言っているのを聞きますね。そういう私も、そろそろおじさん先生ですので、若い先生に「今のうちにたくさん経験するといいよ」なんて先輩面しちゃったりね。

 ところでこんな実験をしたひとがいます。同じ母親から生まれた3匹のネズミをそれぞれ違う環境に置くんですね。Aのネズミは一匹でちゅうさな、失礼、ちいさなオリにの中に、Bのネズミは数匹で、Cのネズミは6〜8匹に加え、くるくる回るおもちゃなどを入れました。数ヶ月そのようにして住まわせ、脳を調べるんです。すると、CのネズミはBやAのネズミに比べると、五感をつかさどる大脳皮質という部分が他の部分より重かったそうです。脳の働きに大切な役割を果たす「シナプス」と呼ばれる部分で比べると、Cのネズミの方がAのネズミより1.5倍も大きかったそうです。

 この人は、他にも野生の子鹿でも同じような実験をしています。2頭の鹿を、片方は小屋の中で、片方を小屋の外の自然に恵まれた環境の中で育てるんですよ。すると小屋の外で育った鹿の脳のほうがずっっと大きく発達していたそうです。

 詳しくはしゃべりませんけど、人間の脳で調べても、いろいろな経験をしている人の脳の方が発達するという研究もあるそうですよ。

 でも、私は本当かな、と思います。今の実験の考えをその通りに人間に当てはめちゃったら、経験の少ない人が救われないじゃないですか。例えば、人間には他動物にない想像する力がありますよね。そんな実験はありませんけど、想像する力が豊かなら、経験の数が少なくても、ちゃんと脳は発達するのじゃないかしら。

 具体的に例を挙げれば、たくさん海外旅行に行っている人は、海外旅行をしていない人よりも脳の発達が悪いのかしら。そんなことは無いと思いますよ。たくさんいろいろな経験をしていても、ちゃんと考えたり、想像したりすることを怠っていたらだめじゃないですか。経験が少なくとも、ちゃんと筋道を立てて考えたり、想像をふくらませることを熱心にすることで十分にカバーできるんじゃないか。私はそんなふうに思いますね。

★実験をした人/出典:M.R.ローゼンツァイク他/『経験に反応して大脳は変化する』1972 Science American 226, pp22-29
☆参考にした本:ロジャー・R・ホック編 『心理学を変えた40の研究』2007 梶川達也 花村珠美訳 ピアソン・エデュケーション, pp13-21
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第12の扉 「いろいろな経験を積むと...。〈ローゼンツァイクのネズミ〉」