ある面白い実験をしたひとがいます。その人の名前はストラットン。どうしてこんな実験をしたのかという理由はちょっと横に置いておいて、どんな実験をしたのかをお話ししましょう。

 この人は、すべてが逆さまに見えるめがねを作って、それをつけて生活したらどうなるだろう、と考えたのですね。それで、そういうめがねを作って自分でつけて生活してみたという訳です。

 最初のうち、ストラットンは逆立ちした世界で幻を見ているような気持ちになったそうです。そりゃそうですね。自分の足が天井の方から見えるのですから。部屋を歩くのも大変で、仕方ないので自分が見ているものを嘘だと思い込んで、記憶に頼って歩いたそうです。

 でも、一週間もすぎると、かなり慣れてきて、なんと、見ているものではなくて、自分の体のほうが倒立しているような感じになり、要するに逆さめがねをかけていても、ものが正しく見えるようになったそうです。

 この実験は面白くて、この後、いろんな人も挑戦しています。そのコーラ−という人が行った実験では、この逆さめがねをつけて、4日目には自転車に乗って、6日目にはスキーをしたそうです。

 日本人でも、同じような実験を牧野達郎という人が実験しています。このめがねをかけていると、少し遠いと老若男女もわからなかったそうですが、顔を90度横にするか、股の間から逆さにみるとちゃんと見えたというからおもしろいですね。

 ところで、1週間くらいでさかさまじゃなくて、ちゃんと見えるようになったのだとすると、今度は逆さめがねをはずしたらどうなるだろう、という気がしませんか?めがねを外したら、また逆さまになっちゃいそうですよね!?

 ところが、実はめがねを外しても、逆さまに見えることはなかったそうです。確かに、ちょっと変な感じが残ったらしいのですが、だんだんと変な感じは消えていったそうです。さらに、時間をおいてもう一度めがねをかけると、今度は1回目よりもはやく正立して見えるようになったそうです。

 いったい、私たちが見ているものって何なのでしょうね。

★実験をした人/出典:コーラー/1964
☆参考にした本:磯貝芳郎他『心の実験室』1975福村出版
◆注記:もともとはドイツの天文学者のケプラーが、人間の網膜には上下左右が逆さまの像が移っているのに、なぜ外界が倒立しないのか、という疑問を持ったことによるようです。

第6の扉 「さかさまの世界 私たちの見ているもの」