今、私たちが生きているのは何世紀であるか知っていますよね。はい、21世紀です。

 今日はすごく昔の実験の話をしましょう。どのくらい昔に行われた実験かといっても、およそ100年以上前、19世紀末にソーンダイクというアメリカの学者が行った実験です。皆さんも私も、私たちのおじいさんおばあさんも空気だった頃の話です。ですから、ちょっとかわいそうな実験ですけど、勘弁してね。

 ソーンダイクはおなかをすかせた猫を、問題箱と言われる箱に閉じ込めました。箱のそばにはえさをいておきます。
 この問題箱にはひもや棒、吊り輪などの道具が仕掛けられていて、ある道具をいじると(例えば吊り輪を引っ張る、棒を倒す、など)、箱のふたが開き脱出して無事えさにありつけるようにしておくわけです。

 もちろん猫はそんなことは知りませんから、箱から出たがり、もがいて何度も道具にかみついたりひっかいたりするわけです。そのうち、例えば「吊り輪を引っ張る」などの仕掛けを偶然に動かして脱出成功、えさにありつく、となります。

 最初はいろいろやってみて(試行錯誤して)時間がかかっていた脱出作戦ですが、だんだんと時間が短くなり、そのうち箱に入れられてもすぐに箱から出てくるようになりました。何か行動を起こして、よいこと(ふたが開いてえさが食べられる)があるとその行動を繰り返す、悪いこと(ふたが開かず無駄な行動をする)が起これば行動しないようにする。そんな行動の法則が見えてきそうですね。

 ところで、仕掛けを倒して脱出成功することを覚えた猫を、別な仕掛けに入れたらどうなるでしょう。今度は吊り輪ではなく、棒を引くと扉が開く装置です。すると、猫は何度も吊り輪を引っ張ります。けれども何度やってもダメであることが分かると、また試行錯誤して仕掛けを発見して脱出します。「吊り輪を引っ張る」ことを止めてしまうことを、ちょっと難しい言葉で「消去」といいます。

 「消去」も大事で、こんな話を知っていますか。

 あるとき、ある男が森で木を切っていました。お昼を食べたあと、切り株の近くで寝ていました。そこへ1羽のウサギが走ってきて、切り株につまづいて転んで倒れてしまいました。男はしめしめとウサギを捕まえ食べてしまいました。翌日から男はその切り株の近くに寝そべったまま、木を切ろうとしませんでした。「またウサギがやってきて、切り株で転ぶに違いない」けれども、いくにちたってもウサギはやってきません。男の畑はすっかり荒れて、食べるものがなくなってしまいました。

 「まちぼうけ」でも知られた歌ですね。一度たまたまうまくいったからといって、同じことを「試行錯誤せず」待つことを愚かな行動、「守株」といっていましめる話です。
 人の社会は猫の問題箱のように単純な世界ではありません。うまくいったとき、それがたまたまなのかどうなのか、よく考えて行動するようにしましょうね。



ソーンダイク:ウィリアム・ジェームスに師事したアメリカの心理学者。猫の問題箱puzzle boxの実験は、1898年に出版された『動物の知能』という論文に述べられている。試行錯誤論trial and errorの実験は、その後スキナー箱への実験につながっていく。パブロフの実験が古典的条件付けと呼ばれるのに対し、ソーンダイクの実験は道具的条件付けと呼ばれている。刺激と反応が効果の法則によって結合したと述べ、S−R理論の基礎を築いた。
注釈:ケーラーは猫が体をなめるとふたを開けるという条件をつけて同じ実験をしている。同じように猫の学習は成立したが、消去(条件を変えると試行錯誤しなくなること)されるのもはやかったという。すなわち、猫の学習には「道具をいじる→箱が開く」という「洞察(みとおし)」が働いていると考えられるのである。また、猫によっては実験の途中で時間が短縮されず、伸びることもあったという。

☆参考文献:藤永保編 『児童心理学』1973 有斐閣 p.51、多鹿秀継編著『学習心理学の最先端』2008 あいり出版p.21
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第18の扉 「成功すると...。 ソーンダイクの問題箱実験」